「外伝」第五十六話 「発見されたな!」

 戸伏大隊が、7隻の大発動艇に分乗してブッシングを出発したのは、
まだ夜も明けきらない早朝であった。それぞれの大発は、武装をした将兵で満載である。
 先頭舟艇の小堺小隊長は、私と同期で船舶工兵の少尉。戸伏大隊長と蔵岡副官と私は、
兵と一緒にこの舟艇に同乗していた。
小堺船舶隊長はこの辺を数回往復しているので、
大隊長も海域のことは彼にすべて任せていた。

 敵に気づかれないようにエンジンはかけずに長い棹で少しずつ漕いで進んだ。
 
船舶内は咳ひとつしない静寂さで、僅か水の音がするだけだった。

 夜の扉が少しずつ迫ってきたので、小堺隊長の進言でペイホ岬に一旦上陸し、
明早朝改めて再出発することにした。
 
海岸から離れて奥の方に進むと、そこにも例の形をしたマングロープが広く張っていた。
 
この辺一帯で朝を待つことにした。
 
翌朝、又も棹で漕ぎながら7隻の大発はスイスイとマーカス岬に向かった。
数時間が過ぎた頃、

ポンポンというボートの音が聞こえ2隻の敵ボートの姿が現れた。
 
「発見されたな」

と大隊長のつぶやく声。

すると第一機関銃中隊の乗った舟艇が急に追いかけざま機銃を撃ち出した!!
こんなことをしては却って敵にわれわれの存在をしらせてしまうと判断し、大隊長は

「やめろツ!」

と大声を出したが、聞こえるはずはない。 とうとう逃げられてしまった。

 その後苦労を重ねながら接岸して7隻それぞれ上陸した。オモイという所だった。
(このことは後の米公刊戦史で、二隻とも日本軍に撃沈されたとある。)
上陸後からのことは「戦陣の断章」を参照。

 大発動艇に関しての秘話。
オモイに上陸する時私は、兵の無事に完全上陸することを見届けていた。
全員の上陸を見届け終わってからヒョイと舟艇内を見ると、いくつも便がトグロを巻いていた。
「あと船の始末が大変だろうな」と思った。人間の生理現象とはいえ・・・。

 後日談
 小堺元舟艇隊長が数年前に我が家を訪れてくれた。 長い長い思い出話に花が咲いた。
例の舟艇内でのこと。

「船乗り部隊には、こんなことは、しょっちゅうあることですよ」
                       
 


 
 
 
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by Switch-Blade | 2005-04-03 18:46 | 第五十一話~第六十話 | Trackback | Comments(0)