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「外伝」第五十五話 「全滅を避けた判断」 

「外伝」第五十五話 「全滅を避けた判断」 _b0020455_1935090.jpg

 
戸伏大隊長の話

 歩兵第141連隊第一大隊長「戸伏長之」少佐(陸士44期)私が戦場に赴任した当時は
「戦陣の断章」の第1章にも書いたとおり立派なカイゼル髭をはやしていた。
毛は濃く両端がピンと持ち上がっており、常に毛先をもんで形を気にしていたようである。
戦闘が始まり、私が副官職について行動を共にする頃には、この動作が激しくなり、
作戦命令を自分で書くような時、セカセカしながら右手には鉛筆、左手は髭をしごいていた。
立派な髭を蓄えた大隊長はとても30そこそこには見えない貫禄があったものだ。
 マーカス岬の戦闘、カ号作戦の後、トーマに集結して一段落した頃、
突然大隊長が自慢の髭を切り落としてしまった。 周囲のものは唖然。
その理由を聞き質したようであるが、一切理由を話すことはなかった。
後ほど推測するに・・
マーカス岬に敵前逆上陸せよとの兵団長の命令に反して北方のオモイに上陸したことが、
「上官の命令に従わなかったということに自責の念があったのではないか」ということである。

    しかし命令どおり敵前上陸をしていたら全滅は必至

再度にわたる命令にもくじけずに自分の信念で実行したとはいえ命令違反は違反である。
  
    この判断は結果的には正解だった。

しかしながら、そこが旧軍隊の軍隊たるゆえんである。 
そのへんは皆さんは暗黙のうちに理解していたようである。
あの立派な自慢の髭を切り落としたということには、よほどの決心があったのだと思い、
その心中を自分流に理解したものである。 旧軍隊の「命令」と「責任」を物語る一例である。                 (戦陣の断章 著者からのコメントを掲載させて頂きました。) 

この後戸伏少佐は、小森支隊が態勢を整理して防禦に転ずる際、
爾後戸伏大隊に第一線を担当させて貰いたい旨の希望を述べた。
逆上陸が、予定地点よりずれてしまった自責の念もあり、
せめて、今後の戦闘で第一線を引き受けて働きたかったのである。
小森少佐はこの希望を快く受け入れその後、第一線の戦闘を戸伏少佐に一任。
この際、小森支隊隷下の中隊を戦闘に投入する際も、
これを戸伏大隊と並列に直轄する事無く、戸伏少佐に配属された。

戸伏少佐はこの信頼に応えるべく善戦に努めた。
「戸伏大隊の防禦編成は大変巧妙であった」と、 米海兵隊公刊戦史には記されている。

※ 参考文献 引用
・戦史叢書 南太平洋陸軍作戦4
・「戦陣の断章」及び同著「マーカス岬の戦闘」
 

 
by Switch-Blade | 2005-03-30 20:26 | 第五十一話~第六十話

対戦車手段不十分な場合の防御戦闘

by Switch-Blade
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