「外伝」 第六話

もうもうたる硝煙で何も分からない

 他の壕が、戦友がどうなっているか気がかりだ
「おーい」「おーい」と呼び合うが見当が付かないのだ。
三十分も経っただろうか、硝煙がやや静まり、大地がわずかに見え始めたとたん
気が付いたなんと周辺に直径五メートル以上もある漏斗状の弾痕が
いくつもあいており、昼なお暗いジャングルがすっかり吹き飛んで
焼野が原になっているではないか!
 支隊のこれまでの損害は、戦死六五、病死十、負傷五七、行方不明十四に及び態勢を整理すると共に海上を警戒する為の部署の一部を変更。
飛行場と海岸近くの洞窟にも中隊を配置し、佐々健彦中尉率いる第三中隊が予備として
ベンガル湾地区の陣地が増強された。
 これまでの経過を、小森支隊長から第十七師団長に対し
「依然任務ヲ達成シアリ、戸伏大隊ノ来援ニヨリ士気旺盛、敵ノ砲撃ニヨリ
マーカス半島ハ清野化サレ、糧秣ハ現地ノモノヲ消耗セリ」
と報告を行い、
 これらの戦況は上奏の際上聞に達し一月六日に師団参謀長を通じ
御嘉賞の言葉が伝達された。
一月九日も相変わらず砲撃が続き、昼と無く夜となくヒュルヒュル
シュルシュルと頭上に不気味な音がうなる。神経戦だ。

幅約五百メートル、深さ(奥行き)一キロメートルに及ぶ縦深に配置された敵の
陣地からは勿論、周辺の島々から間断なく砲撃が繰り返され、
神経も極度に衰弱していた。

 第一線から負傷兵が運ばれてきた。血と泥と汗にまみれ誰か識別出来ない。
軍医や衛生兵が忙しく立ち回る。迫撃砲弾の破片でえぐられた顔や身体が
とりあえず拭い去られると、その一人は大隊砲小隊長の友沢達已少尉だった。
歯が吹き飛び右乳はえぐられ、大腿部をはじめ数個所に破片が食い込み
顔はまったく判別できないほど変形していた・・・
(大腿部の破片は直径約1.5センチ、長さ約9センチ 転進中は毎日傷口から
膿が一合位出たとの事だ。歯は七、八本、右乳もなくなった)

 十一日 
 いつものように激しい砲撃の後敵が出撃してきたが撃退した。
敵舟艇が海岸を偵察に来るので、佐々中隊は更にベンガル湾の警戒を強める。

 十二日
 案の定アラウエ(メッセリア)飛行場附近が敵舟艇から砲撃を受けた。
いよいよ飛行場争奪戦の様相が濃くなってきたようだ

 一月十三日頃から、敵陣地方向でジープの音やら戦車の音らしきキャタピラと
エンジン音が聞こえてきた。
 戸伏大隊長は戦車の出現も予想して、
右第一線 第二中隊(酒井)(一小欠)機関銃一小隊

左第一線 機関銃中隊(加地)(一小欠)第三中隊の一小隊予備、
第二中隊の一小隊、大隊砲小隊。

その他、第三中隊の主力はベンガル、支隊本部に配置。

 一月十六日は早朝から、ノースアメリカンB25、コンソリーデッドB24(爆撃機)、
ロッキードP38(戦闘機)などが飛来、その数も次第に増加し約五十機からの
銃爆撃が始まった。
いよいよ始まったか

 一同緊張する。
ダッダッダッ!ダダダダ!機関砲と機関銃の発射音と炸裂音が
陣地周辺にこだまし、激しい閃光とともに爆弾が炸裂する。
爆風が椰子とジャングルを揺がす。硝煙がたちこめた。
爆撃機が去ったかと思うと戦闘機が機銃掃射を開始する。
次いで敵陣地から大砲と迫撃砲が一斉に射撃開始。
見る見るうちに又もやジャングルが吹っ飛ばされ椰子林は丸坊主と化した。
大隊本部周辺も直径七、八メートルもの大きな漏斗孔がいくつも開いていた。
 第一線ではあちこちで我が機銃や小銃の音が
ダダダ、ドドーン、ダダダダ、タタタタ、ドドドドと間断なく鳴り響き、
マーカス岬一帯は阿修羅と化し彼我乱れての血の決闘となった。

「運命のカ号作戦まであと41日」


戦陣の断章「外伝」第六話 完
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by Switch-Blade | 2004-09-09 04:53 | 「外伝」第一話~第十話 | Trackback | Comments(0)